フランスの美術大学、エコールデボザールとは?ディプロムを取得した日本人アーティストに聞く


“ボザール”という言葉から何を思い浮かべますか?beaux artsとは英語のFine artsのことで、l’école des beaux-artsとは日本の美術・芸術大学を指します。
フランスは各地方にbeaux-artsを設けておりその数は数十校に登りますが、その中で最も権威のあるのは、École nationale supérieure des beaux-arts de Paris(パリ国立高等美術学校、通称ボザール・ドゥ・パリ)です。

今回は今年の6月にボザール・ドゥ・パリの5年生(日本の修士課程終了に値する)のディプロムを終了した日本人アーティスト架菜梨案(kanaria)にインタビューをさせてもらいました!

どうやってボザールに編入した?

kanariaは日本では多摩美の油彩画で勉強してたんだよね。卒業後、パリボザールに編入することになった経緯について教えて!

kanaria : 中学、高校くらいからずっと海外の美大に行きたいと思ってたけど、親からは日本の大学を卒業してからだったら好きにしていいよって言われてて。多摩美在学中にロンドンへの留学について調べたら、学費がめっちゃ高くて、無理だ!って分かって。(笑) 卒業したあとに働きながら自宅で制作を続けられるのかが知りたくて、東京で3年間活動してた。それで、東京でも制作と仕事の両立はできるって分かったけど、この先もこんなかんじなのか〜って未来が想像できてしまって。その頃、パリを旅行したときに、観光では綺麗だけど住んだら絶対違うだろうなって思って、次は住もう!と思ったんだ。それから1年半くらい準備して、一番取りやすかった学生ビザで渡仏した。

最初はボザールに編入する目的でフランスに来た訳ではないってこと?

kanaria : 当時、ボザール・ドゥ・パリには年齢制限があったから無理だと諦めてて。だから、年齢制限のない他のボザールに行っても良いし、レジデンスとして滞在しても良いなと思ってた。
ニースの語学学校に通い始めてしばらくたったら、知り合いからボザールの年齢制限がなくなったみたいだよって知らされて、やったー!みたいな。(笑)

超ミラクル!(笑)編入試験では具体的に何をしたの?

kanaria : 作品を送って、その審査を通った人が面接に進める。でも私は誤解してて、作品じゃなくてポートフォリオを送ってて。送ったものを取りに行ったら、みんなめっちゃでかい作品を運んでた。(笑)

それでも受かったってことは形式よりも実力が大事ってことだね(笑)。面接はどんなかんじなの?

kanaria : 試験官が10人くらいいて、今までの自分の経歴と作品についてこんなかんじです〜って説明した。

それで4年生に編入したんだよね。それは日本で美大での学習経験があるからだったと思う?

kanaria : だぶんそうだね。何年生に編入するかは試験官が決めるみたい。でも日本の美大出身でも2年生に編入した人もいるし、本人と試験官の交渉次第かも。

試験に合格した生徒たちに待ち受ける新たな関門、アトリエ

いざ編入して驚いたこと、ショックだったことはある?

kanaria : アトリエがめっちゃ汚い。(笑) 道具を掃除する洗面台が常に詰まってて、食べるためのフォークとか皿とかが、絵の具のための皿と全部いっしょくたになってて。
日本の美大との一番の違いは、やっぱり専攻がないこと。立体やりながら絵をかいたり、ビデオ作りながら版画したり。それが自由でいいなあと思う。

自分自信が何を学びたいかが大事ってことだね。kanariaはアルベローラ(Jean-Michel Alberola)のアトリエに在籍してたけど、所属アトリエはどうやって決めるの?

kanaria : アトリエは受験より大変だった、、、(笑)。新学期が始まってから、アトリエを決める期間が一ヶ月くらい設けられているんだけど、その間作品を抱えて、あっちこっちのアトリエの先生に見せて回る。先生がサインしてくれたらそのアトリエに入れるんだけど、、。
4、50人の生徒が朝から並んで何時にくるかわからない先生を待って。やっと先生が来たと思ったら、5人くらい見たあとに「今日は疲れたな~また来週!」って帰っちゃう。押しかけてる50人を前に「今アトリエに場所ないから、今年は二人しか取りません!」とか(笑)。
最終的には正規の生徒はどこかのアトリエに入れるけどね。交換留学の生徒は、1年間どこのアトリエにも入れずに帰ることもあるみたい(笑)。

kanariaの在籍していたJean-Michel Alberolaのアトリエ

その理不尽さ、さすがフランスとしか言いようがないね(笑)。どんな授業があるの?

kanaria : 美術史などの一般教養みたいな座学の授業と、テクニックの授業があるけど、私が編入した4年生からだとそんなにたくさん必修の授業はない。ただ自分で制作するってかんじ。

指導教官からはどれくらい密に指導してもらえるの?

kanaria : アトリエによるかな。うちのアトリエでは講評はない。アルベローラが作品にたいしてコメントをくれるのは年に1、2回。(笑)週一でアトリエには来るけど、「Bien bien ! (Goodの意) じゃあ頑張って、またね ! 」って帰る。(笑)

ディプロム取得はどのように決まるの?

kanaria : 試験官に制作した作品を提出する。1年で制作した作品が少なすぎると、進級できないこともある。あと、5年生までに論文を書く。必須ではないけど、スタージュ(インターンシップのこと)をする子もいるよ。

指導教官のアレンジで、学外で発表する機会が与えられることもあったりする?

kanaria : 先生から話をもらって学外のギャラリーで発表している人もいたよ。もしかしたら、パリボザール以外ではもっとそういうのがあるかもしれない。学校と先生によるのかな。

ディプロム取得時に校内で開催される卒業展

ボザールに来て、より自由になった

ボザールでの経験は、自分の作品にどのような影響を与えたと思う?

kanaria : 前よりも自由になったかな。こういうのもアリなのか!って気づくことがたくさんあった。
例えば、今までの作品では余白部分を少しだけ残すことがあったけど、余白で区切ったりするのがすごく増えた。白いところ、ここまでやっちゃっていいよ!ってアルベローラが意見をくれて、こんなとこまで?!って。

パリっていう街に住むことも影響したと思う?

kanaria : それも、あると思う。例えばニースにいたときは、水平線とか、山とかがすごく出てたかな。

これからの活動の展望を教えて!

kanaria : パリで個展をしたことがないから、ギャラリーで展覧会をしたい。パリは汚いしぐちゃぐちゃしているけど、自由なところが好き。
こっちに住み続ける目標は、作家としてビザをとってやっていくこととつながっているから、それに挑戦していみたい。

架菜梨案(kanaria)
2011年に多摩美術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業し、2014年渡仏。2017年パリ国立高等美術学校卒業。淡い色の組み合わせと綿密なタッチで愛に溢れる世界を描く。
公式サイト:
http://kanariaroom.web.fc2.com/

©Michel Lascault

架菜梨案のボザール体験、いかがでしたでしょうか?
学生生活で起こる様々な問題を飄々と語ってくれましたが、慣れない国で現地の学生たちに混ざって奮闘するのは苦労が絶えません。日本社会で学んだ常識は一切通用せず、履修方法や単位など、学校の制度を一つ一つ確認していきます。フランスは(日本と比較すると)かなり大雑把な国なので、人によって言うことが違ったり、重要事項に急な変更があっても当たり前。外国語でそのフレキシブルすぎる運営についてゆくのはとても大変。
架菜梨案はその柔らかい外見と作風とは裏腹に、とてもタフなアーティストだと感じました。そのタフさは、10年以上変わらない作風のコンセプトの強さとつながっているのでしょう。