ウォルフガング・ティルマンス «2017» Tate modern museum

ウォルフガング・ティルマンスの展覧会«2017»に行ってきました!
テート・モダンのワンフロアの半分、14室にわたる空間を余すところなく使った展示。
アーティストの多方面にわたる造詣の深さに圧倒されます。

作品のディスプレイを構想するのもティルマンス本人です。室内全体でそれぞれの部屋の主題を表現していました。壁に写真を固定しているだけなのですが、平面のイメージが空間として立ち上がってくるように感じます。

写真の系統や大きさ、額などで、壁に”遊び”のような空間が生まれます。展示空間にキャプションなどの文字は一切入れないようにしていたのもおもしろい試みです。ただ鑑賞者が、代わりに配っていたリーフレットを読みながら作品をみていたので、作品への注意が削がれてしまっていて少し残念でした。

写真も素晴らしかったけれど、インスタレーションのtrue study centerシリーズがとてもよかったです。木で出来たショーケースの中に、新聞のコラムや記事、ティルマンスのメッセージが並べられています。

© Tate Modern showing Wolfgang Tillmans: 2017 at Tate Modern

特に、タイムスパンの表現がとてもおもしろいと思いました。
“1969 was 24 years away from 1945 24 years back from now is 1992″
(1969年は1945年の24年前 今から24年前は1992年)”
まっすぐに進んでいくヒストリカルな時間の概念を少し歪めて私たちの感覚をくすぐります。1945年は第二次世界大戦終結の年、その24年後が、人類初の月面着陸に成功したと言われているのが1969年です。

新聞などが出典なのにも関わらず、少し偏った内容の記事が並べられています。このtrue study centerは真実を伝えるものではなく、知らないということを知る、疑いに気づくためのインスタレーションなのです。

ティルマンスの作品全体に一貫した主題はopenness(開放性)とvulnerability(脆弱性、もろさ)です。彼はこのように語っています。

“It’s so embarrassing to approach someone and say you want to look at them. But without risk-taking, nothing can happen, so I have to make myself vulnerable. What I think is the unifying aspect in people that I like is that they have a sense of their own vulnerability, and I respond to that.” *1
「誰かに近づいて、他の人に彼らを見れくれっていうのは気がひけることだ。けれど、リスクを取らなければ何も起きるはずがない。だから、私は自分自身を傷つきやすい状態においておく。 私が好きだと思う人たちの表情をひとつにつなぎ合わせることによって、彼らは自分たちのもろさを実感することになると思う。そして、私はそれに応えるんだ。」

ティルマンスのポートレートをみると、彼らは”普通の人”のように見えます。ところが、複雑な問題を抱えていたり、少し困難な状況にある人たちなのではないか、と勘ぐらせてしまう何かがあります。それは、ティルマンスがホモセクシュアルであることや、写真の被写体になっているという事実に起因しているのかもしれません。見られる対象物となった彼らをこちらから観察することは、あまり居心地の良いものではありません。この居心地の悪さが、まぎれもないこの世界のリアリティなのかな、と感じました。誰しも人生が年中無休でハッピーは訳もなく、多少の困難を、時には受け止めながら、時には流しながら生きているだけです。

Brexitに関するティルマンスの提言にも、opennessとvulnerabilityの主題は見ることができます。彼が投票を促すために制作したポスターは、ドーバー海峡の波や空などの自然がモチーフになっています。ティルマンスにとって、自然=自分たちが否応無しに組み込まれているもの=社会と連想されるのでしょうか?また自然にはnationという概念がありません。EUは国として概念的に分断されてしまった自然を、人間の”理念”によって再び統合した成果とも言えるでしょう。その理念を人間が自らの手で再び壊してしまうことを懸念してティルマンスはこのようなメッセージを伝えようとしたのでしょうか。

Opennessであること、脆さを受け入れることは本来とても勇気の要ることです。自分が傷つけられることを恐れない強さは、彼の作品の多様性からも伝わってきます。身近な人を写すことは自分のプライバシーにもつながっているからです。他者との関わりについて、ティルマンスはミクロとマクロの視点両方からカメラを通して表現しています。大きく変わろうとしている世界の流れに疑心暗鬼になってしまう私たちに対して、ティルマンスはとてもポジティブ心のこもったメッセージを伝えてくれていると感じました。

*1 Chris Dercon, Wolfgang Tillmans 2017, 2017, Tate publishing, London, p. 22

*2  Ibid., p.74 “Tillmans’s pursuit of natural beauty cannot be separated from his engagement with society, but still the question remains as to why such images have become so prominent in the mid-2010.”

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«2017»
2017年2月15日 – 6月11日
Tate modern museum
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